さてここまで、生まれ育った丹後で建築の仕事に没頭しながらも第6 感で感じてきた私の考えを、なるべく自然体で書かせて頂きました。自然の恩恵を住まいへ生かすことによって感じる心地よさであったり、比較的余裕を持った土地の中で程よい距離感を保って暮らすことは、「永く住む」ということを想定した時にとても大切なことだと思います。余裕、余白というものをあえてとることは、住まいのゆとりに繋がります。そしてそのことは、建築における「資金計画」という部分においても同じような考え方で施主様に寄り添うのが私たちのスタンスです。
「家」という不動産の購入は、私たちの一生の中でもかなり高額な出費イベントになります。もちろんタイミングに関してはそのご家族様のライフスタイルによって様々なのですが、購入されるその時の状況だけでなく、できる限り将来のライフプランや家の修繕も視野にいれた資金計画を練っていくことがとても大切です。そのような考え方をもつことで、返済計画はもとより、予想される必要な出費に対応しつつ余裕をもった日々の生活が続けられるものと信じております。
一方で、新居の計画、あるいはリノベの計画の間取りや仕様決めをする時間はとても楽しいものです。「ここはこんなふうに生活してみたいし、キッチンはこのメーカーで、この色で・・・」と、お施主様のそんな様子を拝見していると私も自然と力が入り、思いを形にしてあげたい!と提案にも熱がこもってくるのも正直なところです。しかし、ここで私たちには重要な役割があります。それは、「予算配分を考えてトータルアドバイスをする」ということです。言い換えれば、ご要望をお聞きした上で、費用をかけるべきところはかけて、その分抑えられるところをプロとして伝えていくことで、全体の予算の振り分けを合理的に導くことです。正直、色んな理想を持ったお施主様を目の前にして一番言いにくいお話で、とても勇気が必要です。でも、ここは少しくらい嫌われてもいいから必ず伝えるようにしています。
予算配分に関してもうひとつトレンド的なことでいえば、家の性能にどれだけお金をかけるか?という選択もしていく必要があります。ひとつの国の基準として、ZEH 住宅が周知されてきましたが、この基準をクリアすることはいまや必須となりました。家の外皮性能をUA 値として表し、一定の基準をクリアすることでZEH 住宅となり、さらに性能をあげていくとHEAT20 といったグレードになります。
簡単に言いますと、予算をかければかけるほど数値上の性能はあげることが可能です。暮らし方にもよりますが、一般的にはそうすることで光熱費も下がると試算上は言われています。でもあくまでも試算上というのがミソで、光熱費を下げるためには住み方がある程度強制されてしまいそうに感じます。例えば毎日窓を開けて自然の風を取り込みたい方が、高気密の家になるように沢山お金をかけることはもったいないと思います。高気密・高断熱をどこまで担保するかで予算がすぐにかさんできますので、どういう暮らし方をしたいか?という思いも予算配分にはかかせない要素となります。ここは将来の暮らし心地を左右する部分ですので、いつも時間をかけて思いを聞かせて頂いています。
また、丹後は海が近くにあり冬にはそこそこ雪が降るため、塩害と雪害に対してできるだけ適した材料選定をすることも大事です。資金計画を将来も見据えて考えるという中で、メンテナンスコストは切り離せないものですので、もちのよい材料を使ってメンテ時期がだいぶ先になるように考えます。小さなお子さんがいらっしゃるご家族様で、例えば進学時期と高額な家の修繕時期は重ならないようにすることも含めて資金計画としておきたいところです。
私たちの資金計画の考え方は、今だけを考えないことをまず大事にしています。新しい家が完成してから始まる未来を対話の中で想定しながら、お施主様にあった予算組みと予算振り分けを一緒に考えていきます。新居で集まる団らんの場から、今日も笑い声がする。そんな日常をお過ごし頂けるような資金計画、そして建築計画であることを、私も心から望んでおります。