現在の建築において、「高気密・高断熱」や「高性能」という言葉はトレンドになっています。建築事務所さんやハウスメーカーさんの営業から「うちのUA値は〇〇で、C値はいくらです!」「他社さんに性能数値は負けません!」というセールスを受けられた方は多いのではと想像しています。家を建てられるお施主様たちは初めて聞く数値の値に迷わされ、何をどう判断していいのかわからない場面も増えてきているでしょうし、その数値で家の優劣がついてしまうという時代になってきました。
もちろん高気密・高断熱の住宅をつくることは夏の暑さはもとよりなによりも冬の寒さが軽減されて、結果、冷暖房における光熱費は少なくてすみCO2排出も抑制できる取り組みなので、悪いことではありません。私たちもそのことは理解しておりますので、補助金が取得できるUA値0.6以下までは住宅の性能を担保しております。
しかし、過剰にその領域に振り切ることに関してはあまりお勧めしておりません。
※画像はイメージです
以前こんな経験をしたことがあります。その日はUA値とC値をとことん追求した超高性能のモデルハウスが体感できるということで、仲間内の工務店社長さんたち20人くらいで見学にいった時のことです。外観は私も好みの杉板と白い塗り壁をうまく調和させた素敵な家でした。でもなにか足りないような??と考えていると、やけに窓が少ないことに気づきました。
そうこうしているとモデルハウスの説明が始まり、性能スペックはなんとUA値0.2とのこと(数値が少ないほど高性能)で、広いLDKから吹き抜けがつながっている大きな空間にも関わらず18帖用のエアコン1台で暖かいんですとアピール。
冬の寒い日でしたので、確かにものすごく暖かい家だということを実感はしたのですが、20分もしないうちに私は一度外へ出たくなってしまったのです。
ふと横を見ると私と同じような顔をした先輩社長が横にいました。「俺のつくりたい家じゃない」その先輩社長はポツリといいました。私たち2人はどうやら同じことを考えていたようです。
確かにお金をかけて断熱材をとことん分厚くして、窓も樹脂製のしかもトリプルガラスにして窓を少なくすればUA値をよくすることは可能。でもあのなんともいえない息苦しさをお施主様が体感したときにどう感じるんだろう・・・もし自分なら嫌だな・・・。そんな考えでした。例えるならペットボトルの中にいるような感覚・・。これは私にとってある意味とてもいい経験でした。
正直この体験をするまでは、高性能に振り切った住宅に対して漠然となにか違うんじゃないだろうか?という想像しかなかったのですが、窓は少なくどこか閉塞的な空間に感じられたその時のモデルハウスに入ってみて、私たち住まいのトミタがお施主様と共に感じたい価値観の家とはやはり乖離があるということを改めて知ることができました。このエピソードは、実際に私が接客させて頂くお客様へ話す機会も多く、同じ価値観をもった方はとても興味深く聞いてくださいます。
これは仮のお話ですが、もし私たちが暖かさやスペックにすごくウェイトをおいた建築をするとしたら、大きな窓を設置したり、東西南北に風が通るような窓設計はしないほうがいいことになります。南側や西側は日差しが強いですから、極力小さな窓を設計して残りは外壁とし、外気からの温度の影響をより受けないようなつくりにしたほうが計算上断熱性能はあがりUA値はよくなるからです。でもこれでは「自然を感じながら住んで頂きたい」という私たちの設計思想からは遠ざかってしまいます。
東の空から入ってくる朝の陽ざしを感じて目覚めたり、天気のいい日は東西南北といった対角に配置された窓を開けて気持ちのいい空気を家の中に取り込んで頂きたい!やはり私はそんなふうに思います。
建築は色々なところに予算配分をしていかなければなりません。ひとつひとつが大事な選択になりますし、価値観はもちろん人それぞれです。その選択をしていくのは他でもないお施主様自身です。
私たちの考える建築は、程よい住宅性能を担保しつつ住まい手にとって窮屈感の少ない空間づくりもテーマです。長く住んでいるこの丹後の良さを我々自身が五感で感じながら、性能や数値だけにとらわれない家づくりをお施主様と一緒に楽しんでいきたい!そんなふうに考えています。